つるかめ助産院/小川糸
*あらすじ
夫が姿を消して傷心のまりあは、一人訪れた南の島で助産院長の鶴田亀子と出会い、予想外の妊娠を告げられる。家族の愛を知らずに育った彼女は新しい命を身ごもったことに戸惑うが、助産院で働くベトナム人のパクチー嬢や産婆のエミリー、旅人のサミーや妊婦の艶子さんなど、島の個性豊かな仲間と美しい海に囲まれ、少しずつ孤独だった過去と向き合うようになり―。命の誕生と再生の物語。
印象的なフレーズ
★そうよ、頭の中をすっからかんにして、自然のリズムに沿って生活して、きちんと体も動かして、そうやって体と心をリラックスさせることが大事なんだもん。都会で暮らす人たちはよく勘違いしちゃうんだけど、リラックスっていうのは緩むことでしょう。緩んでいないと、いざと言う時に力が入らないの。都会の人たちは、頑張って頑張ってリラックスするんだから、ほんと笑っちゃうわよね。
★先生に限らず、島の人たちはよく笑う。例えば子供が鼻水を垂らして泣いていたとか、誰それの靴下に穴が開いていたとか。小さな事でも見つけてはゲラゲラ笑う。最初、私は何がそんなにおかしいのか意味がわからなかった。けれど、島に暮らしているとだんだんとわかってくる。島には娯楽が少ないから、小さな事でも何かおかしさを見つけ、みんなで共有して楽しむのだ。島の人たちが考え出した島で生きる知恵なのだろう。実際は些細な事でも、みんなで大声で笑っているうちに本当におかしくなって、それまで抱えていた悩みや心配なんかが、まぁいっかー、どうにかなるかもー、と言う気持ちになってくる。
★マッサージとは言え、やはり私の基本は先生から教わった手当てだ。最初のうちは肩に力が入り、私が痛いのを直してあげようとおごった考えを持って失敗した。そう思う事は、自分がその人よりも上に立っていると言う事だからどうしても高慢な心が芽生えてしまう。大事なのは、心を空っぽにすることだった。ただただ、相手の呼吸に合わせていく。
主人公のまりあは、なかなかシビアな設定で、どうなっちゃうのかしらというところから物語は始まりますが、島の優しい人たちに触れてまりあが柔らかくたくましく変化していく様子がとても良かったです。ほわほわと温かい気持ちになれました。